grassy place -2-

私は16歳のころ、小径で「Café grassy place」を見つけた。

 そのカフェは『思い出、記憶を預かります。』という不思議な店だった。

 

 今日は2度目。

 

「こんにちは。」

「いらっしゃい。今日もホットココア?」

 マスターがカウンターに目を移しながら聞いた。

「今日は…ミルクティーにします。」

 恥ずかしさで頬が染まった。

「学校帰りかな?」

「はい…これから塾です。」

「偉いね。なりたいものでもあるのかい?」

「一応、学芸員になりたいと思ってて」

「そうか、学芸員ね。それじゃあ勉強たいへんだ。」

 

「きみのおばあさんの直子さんは、あんまり勉強はできなかったみたいだね。

 けど…小さいころから台所仕事は好きだったみたいだ。」

「そうなんだ…(お母さんとはちょっと違うんだな)」

 紅茶の缶を取りながらマスターは、

「今日も見てみるかい?直子さんの記憶。」

「はい。お願いします。」という前にもう、ガラス玉はピンボールの箱の中へ

 はじかれた。

 渦が巻かれ、モノクロの画面には私とそっくりな5歳の直子さんが上がり台に

 立って、台所に向かっていた。

(ここはどこの台所かしら)

 横にはこの前とは違う中年のおばさんが立っていて、

 5歳の直子と米研ぎをしていた。

 ジャッ ジャッ ジャッ  ザー

「セツ婆、お米には神様が住んでるんだよ。保育園の先生が言ってだ。」

「んだよ。だからこのザルにお米が残らないように、最後の一粒までお釜に

 入れるんだよ。」

「ふーん、このザル大きいねー」

「これは、ばっちゃの嫁入り道具だよ。それをわだしがひぎついだの。

 ばっちゃがお嫁に来た大正から使っでる。穴あいだら、まだそごだげ編んで使っでる。」

「タイショーってなあに?」

「はっはっはっ ずっど昔っでごどだ。」

 

 鍋には、かぼちゃがコトコト煮えていた。

 

 

 マスターはミルクティーにかぼちゃプリンを出してくれた。

 口の中は甘さでいっぱいになり、塾に向く足は軽かった。

 もうすぐそこに水墨色の冬が来ていた。

 

 

  あとがき

  「草邑」では、てしごとの温もりをstoryとしてお伝えします。